「人は『のど』から老いる 『のど』から若返る」
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喉を鍛えると誤嚥も肺炎も予防でき、長生きできます。そのノウハウの多くはすでにヴォイストレーニングで実践されています。その効果は、歌手や芸人がいつまでも若々しく、生涯健康に生きていることで証されてきました。
本書は、俳優、歌手、声優、芸人のかけこみ寺的存在で有名な声専門の研究所のヴォイストレーナー福島英氏が、健康面とそのトレーニングの2本立てで解説していきます。
喉の筋肉は何歳からでも強くなるといいます。最近では歌手や役者の声が、芸人の声に比べ、弱くなっているそうです。それはどうしてなのか?声力の身につけ方とは?好印象になる声の出し方、老化や誤嚥性肺炎予防のコツまで幅広く、わかりやすく解説します。(世界最大の声のブログQ&Aサイトからもエッセンスを転載しました。)
あなたの声や話、コミュニケーションの実力をアップさせるのにきっとお役に立ち、健康で元気になることでしょう。[講談社のPR文より]
〇プロローグ[本文より一部編纂]
こんなことを感じる人は、特にご注意ください。
□長時間話すとのどが疲れる
□人の話が聞こえづらい
□声が通りにくい
□カラオケがへたになった
□滑舌が悪くなった
□人とあまり話したくなくなってきた
□よくかすれ声になる
□食べ物が飲み込みにくい
□硬いものが噛みにくい
□食事中や会話中にムセたりせきこむ
□錠剤が飲みこみづらい
□咳払いが多くなった
□痰が絡んだ感じがする
□食べるのが遅くなった
□食事量が減る、痩せてきた
□のどや胸に違和感がある
〇健康でいたければヴォイトレを
日本人の寿命は延びていき超高齢化社会となりつつあります。
人生100年時代と言われ、
誰しも健康に生きることを考えざるをえません。そこでは、
あまりに多くの情報や新説が氾濫して混乱しています。
それがうまく使えず、
却って迷ったりストレスになったり不健康になって、
不利益を被っている人も多いのではないでしょうか。
しかし、どんなに医療や福祉が発展しても、
自分自身の身は自分で守るということを忘れてはならないと思うの
です。
天よりの賜物である私たちの人間の能力は、本来、
相当にタフで高度なものです。その中でも基本の二つは、
歩くことと食べることです。
私たちはそれを技術で補ってきました。ただし、
それに頼りすぎると、体力、筋力、五感は衰えていくわけです。
これは、もはや文明病であり、高齢者だけの問題ではありません。
こうした状況に対応して、町を歩けばフィットネスや整体、
マッサージの施設をたくさん目にします。
筋トレや体力をつけるためのジムも、
今は健康や癒しのために使われる割合が増えているそうです。
私のヴォイトレの研究所にも、いつ知れず、そういう目的で使われている人が目につくようになりました。30年ほど前の設立当初は、プロ歌手のヴォイトレから一般の人向けのプロ養成所として開設していました。しかし、あらゆる分野の人がいらっしゃるようになったので、個人レッスンを主体とするようにしていきました。トレーニングジムと同じく、強化養成目的であったところが、病院からの紹介や、元々声の弱い人が増えてきて声のケアが大きな割合を占めてきたのです。
幸い、ここは当初より、日本の音楽療法の礎、桜林仁(芸大名誉教授)に顧問をお願いしていたように、これからのヴォイトレは、医学や科学抜きにできないとの思いで、健康や心理面との研究を重ねていました。その後も声紋分析など、科学者などとの共同研究プロジェクトを始め、幅を広げてきました。私自身、今も国立障害者リハビリセンター学院の講師をしています。そこで育成している国家資格の言語聴覚士というのが、本テーマともっとも深い関係にある専門職です。これまでも「人は声から若返る」(祥伝社2007)という本やのどの力そのものを強化するような教材などもつくってきました。
ヴォイストレーナーがのどのことを扱うのは、私にとって当然のことです。私のところでは、のどの問題そのもので来る人、能、歌舞伎、詩吟、邦楽から芸人、役者、噺家、ビジネスマンがいらっしゃっているからです(誤解のないように付言すると、一般的にヴォイトレというのは、歌がうまくなるための発声や高音でのテクニックなどが中心で、のどの問題そのものは必ずしも扱いません)。
〇医療の前に芸術(アート)を
のどの機能や誤嚥、嚥下障害、肺炎などの病気を知るには、医者ののどに関する本を読めばよいと思います。私は医者ではないので、治療という立場はとりません。治療とは、マイナスをゼロにすることです。そのようにして現状を回復することは、一時的処置ともいえます。悪くなってはなおすことを繰り返していても、人間は年と共に弱くなります。少しずつ状態は下がっていくのです。回復力も現状のレベルも衰えていきます。
心の問題も大きいです。よくないから回復させようというのは、守りです。緊急事態では仕方ありません。
しかし、こういう本を読もうとする人の大半は、そこまでひどくないはずです。当事者だとしたら勘のよい人でしょう。あるいは、周りでそういう人がいて困っている人が多いかもしれません。それなら、守ることよりも、もっと高い目標を掲げ、攻めること、予防することです。
声が老けてきた→老けないようにするのではなく、若々しくする。かすれてきた→かすれないようにするのではなく、もっと流暢にする。そこが、医療と芸術との違いの一つだと思うのです。
ですから、楽しくヴォイトレで解決していくこと。何事をするにも、楽しんで心地よいほうがよいでしょう。それにはポジティブになることです。
そういうことなら、労せず楽しめるし続きます。そして、生涯、効果が持続します。声を出すのが快感になったとき、あなたののどの問題も消えているでしょう。つまり、よくなっているのです。
習慣にすることを義務でなく、楽しみ、趣味、生きがいとしてセッティングすると、効果がまったく違ってくるのです。これまでよりずっとよくなるのです。
〇自己治癒力と自己実現力
高齢者やリハビリなどの施設で行われているトレーニングは、
もちろん、アンチエイジング、
脳障害のリハビリなどには有効です。
そうしたメニューやツールを使うのはよいのですが、それは、
やはり、キュア=治療とケアなのです。リハビリは、
社会復帰のためですから当然でしょう。
しかし、人がもっともいきいきするのは、
何か自分が高まっていると思えるときではないでしょうか。
ヴォイトレで直接、アートと接してきた私はそう考え、
現実的な対処が問われる現場でも、
少しでもそういう天与の力を伝えようとしてきました。それは、
生きがいに結びついていく本来の意味での「自己治癒力」です。
アーティストには障害をものともせずに生きた人が多いことにもヒ
ントがあります。
人は遊ぶことを楽しみ、生きていく存在です。
トレーニングとか回復のメニューというメンテナンスより、
好きなことや興味のあることを広げて深め、結果、
のどや心身のためになる、それが、
これからのメインになっていくとよいと思います。
ですから、のどのことを根本にして、呼吸や発声のところから、自然とよくなるようにしたいと思っています。そして、日常的にきちんと使えるようにしておくのです。
声は見えませんが聞こえます。とても効果がわかりやすいのです。それは、声、ことば、おしゃべり、朗読、歌と、人生の楽しみに関わってきます。つまり、私の専門分野になるということです。
〇のどを強くする
「のどが強い」というのは、どういうことでしょうか?
のどは空気と食べ物が通ります。
歯は食べ物を噛み砕くためにありますが、のどは通り道ですから、
それが強いとなるとどういうことでしょう。たくさん、
早く食べられるとなると、歯やあごの強さとか、
胃腸の強さになりますね。
肉食を主とする民族と比べると、私たち日本人は、
骨格もあごも歯も、もとより硬いものに噛みつき、引きちぎり、
丸のみするのは不得意です。同様に、胃や腸も、
肉よりも穀物などを消化するのに向いています。しかし、
首の太さや長さはともかく、のどとなると、
さほど変わらないものでしょう。
かたや、日本で「のどがいい」というのは、声がよい、歌声がよいということでした。「のど自慢」などは、まさにのどで練り上げて声を張り上げるイメージからきています。声帯模写などでも同様、日本人にとって、のどを鍛えるとは、「歌声をよくする」ような意味があったのです。転じて、大きな声が出せる、たくさん長時間話しても声がかれない、歌なら声量があるとか、シャウト(叫ぶように歌う)しても壊さないということで「のどが強い」と使われます。
今、多くの人に問題となっているのは、誤嚥性肺炎をのどで起こしてしまうことです。死因としては別の病名がついていても、直接の原因としては、気管からものが入って肺炎を起こしたことで、死に至っていることが多いのです。食べ物を誤嚥しなくとも、唾液などを誤嚥することなどが多いことに着目する必要があります。それが慢性化すれば、異物を出そうとしてむせたり、せき込んだりする力もなくなるというわけです。
のどを鍛えると、誤嚥も肺炎も予防でき、健康に長生きできるということです。そのノウハウの多くは、すでに私のヴォイストレーニングでは、ほぼ実践されています。そういった効果は、歌手や芸人がいつまでも若々しく、生涯健康に生きていることで証明されているといってもよいでしょう。
〇のど仏も垂れてくる
「年をとると何が変わってくるでしょうか?」赤ちゃんのほっぺは
、ぴちぴちですね。水分量が多いのです。それが年齢を重ねるごと
に、乾いてくる、干からびてくる(失礼!)、
保水できなくなりケアが必要となるのです。
若い人のほお、あご、二の腕、お尻はアップしています。上に引き上げる筋力があるからです。いろんな挙上筋の働きです。年齢とともにその筋の力が衰えて重力に負けてくるのです。そして、太もももまぶたも、みな下がってきます。のど(喉頭=のど仏)も例外ではありません。
元より、のど仏は支えられているのでなく、ぶら下がっているだけですからなおさらです。つり下げている筋肉、腱が衰えると下がるのです。
お年寄りののど仏を見てみてください。男性なら出っぱっているのでわかりすいはずです。のど、首周りは老化がわかりやすく現れるところです。年配の人がアクセサリーやネックマフラーなどで首をみえなくして年齢を隠します。そこをみせないのは、おしゃれの定番です。
飲食物を飲み込むとき、喉頭挙上筋群がのど仏(=喉頭)を上げます。そして喉頭蓋が倒れ、飲食物が気管に入らないようにふたをします。唾液を飲み込むときにはのど仏が上がるので、実際に自分の指で触って、動きを確かめてみてください。そのときに気管は、ふたがされて、飲食物は食道へ入るのです。
誤嚥は、主に喉頭筋群の劣化によって起こります。となると、誤嚥を防ぐには、それを劣化させないように鍛えたらよいのです。のど仏の位置と動きが健康寿命を決めるのです。
そこで、ヴォイトレがその強化として使えるのです。
〇人生100年時代に向けて
ここのところ、ヴォイストレーニングは、
一般の人の中でも大きく広まってきました。
私が思うに、まず情報過剰ともいえる社会において、
これまでにないさまざまなストレスが心身の不調をもたらしていま
す。パソコンやスマホに長時間向き合う生活は、
姿勢や呼吸も乱し、視覚から脳へ多大な疲れをもたらし、
聴覚などの他の感覚の衰えを促します。
情報に振り回されず、心身のバランスを取るのに、
本物や美しいものを求める志向が高まっていると思います。
特に日本の社会では、
未来に不安を感じる人が多くなりつつあります。
仕事や生活から人間関係のストレス、うつや不定愁訴、体調不良、
痴呆まで、誰もが関心を持ち、心身を守ろうとしています。
これらの動きを私なりにまとめますと、みんな、
何かしら体に確かなものを求めているのではないかと思います。
それを突き詰めると、さらに「思想や言語、ことばでは何とでもいえるけど、本音は声に表れるよね」という、まさに論理でなく身体の世界への信頼のように思うのです。体に宿ったものこそが、個性かもしれません。
いかにきれいにことばでいえても、声の表情は隠せません。話すことより聞くことの大切さ、話し下手が、話し上手より好かれるなどといった昨今の風潮は、そのあたりを鋭くついているように思います。
最近、年配の方とのトレーニングを行う機会が増えました。私どもの研究所に高齢の方もいらっしゃるようになりました。最初は、私もハラハラしていたのですが、今はすっかりなじんでしまいました。私どものトレーナーも、一生懸命で教えがいがあると、いたって好感度が高いのです。
私はかつてプロ志願の若い人たちと、毎年、合宿を行ってきました。ときに、そこに、舞台にとても慣れた人がくることもあるのですが、私がもっとも感動したのは、ある年配の方(最高齢の参加者)の歌のフレーズでした。
カラオケでも、年配の方が、驚くほど若々しく色気のある表情で歌っているのを、目にすることがあります。
「そんな眼を、そんな口元を見せられたら、その声を浴びせられたら、惚れちゃうよ」といいたいくらいの、人生を結晶化させたようなその人のことばが、声に出てくるのです。
これは、朗読や芝居でも同じです。私は、ずっと音響や舞台の技術の後ろに、本人が隠れてしまうような日本人の歌い手や舞台人を、「誰かのようにうまく」でなく、「あなたの思いが伝わる」ようにと、声から指導する立場でした。「自分の歌を歌おう」と、「自分の声を出そう」と、いい続けてきました。
決して、素人がうまいとは申しません。うまいのは、やはりプロです。しかし、日本人のプロの多くが失った、本当のその人らしさが、垣間見られるとき、私は思わず感動し、感涙さえ禁じえないのです。うまいだけで終わらぬためには、全身からの声と、生活に根ざした心から伝える思いがいるのです。
そうしてみると、声が年齢とともに渋くなっていくのは、悪くないと思うのです。
しかし、体が硬くなったり、のどが不調では、魅力的ではありません。年相応であっても、声は生きている姿勢を表わすのですから、若々しくありたいし、声から若返って欲しいのです。
人生100年時代、会社の定年など関係なく趣味と仕事を創りましょう。これからは、be an Artist、イキイキ、ワクワクするアートな生活を目指しましょう。
生涯現役、健康長寿で生きる、アーティストの生活にそのヒントがたくさんあります。
そういう人たちを日夜、支えてきたのど→声→ことばは、文化のベースであり人間の根源的な欲求に直結しています。
呼吸をして飲食するという生きるための役割としてあった、のどが、ことばを司るために発展してしまったということには、考えさせられます。誤嚥という生命に危機をもたらす形態に変えてまでも、発声、発音、ことばを優先してしまったことに、私は驚くのです。まさに、人はパンのみで生きるにあらず、です。
〇のどから健康を保ち、声の調子をよくする10ヵ条
のど、声帯が潤っているということは、
全身が理想的に保水されているということになります。そのために
は、次の3つのことに留意するとよいでしょう。
・姿勢と深い呼吸―規則正しい生活、食事の管理、
適度な運動をする。
・口内を乾燥させない―過度に吸水し、体に保水を心がける。
唾液の分泌をよくする。
・笑顔で声をよく使う―毎日、表情と体を動かし、
声の調子をよくしておく。
具体的には、次の10ヵ条を念頭においてください。
1. 生活習慣・環境の改善、柔軟体操と体力づくり、肉体的に強くする
2. 精神面、集中力、やる気、モチベーションをアップする
3. 呼吸を深くする
4. 顔の表情を豊かに、よい笑顔にする
5. はっきりした発音にする、語尾まで明瞭に
6. 相手の声をよく聞き、呼吸を合わせる(=共感)
7. 自分に合った声色を中心に使い分ける
8. 声量、パワーを使い分ける
9. 声域、高低を使い分ける
10. 気持ち、感情を切りかえ、声に込める
(→続きは、どうぞ本書にてお読みください。)