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ヴォーカル、ヴォイストレーニングQ&A

[10]歌とステージング

 

Q078

「よくヴォーカリストの○○に似ている」といわれたり、楽しいステージだといわれるのですが、レベルの高いバンドの人からは「歌がつまらない」、「何を歌っても同じようにきこえる」と言われることもあります。何をどのようにしたらよいでしょうか。
A078

これは初心者にありがちなことです。特に「○○に似てるね」と、誰かに似てると言われるのは、「それ位うまいのかァ」と自尊心をくすぐられ、うれしいものです。でも喜んではいけません。歌い回しというのは誰にでもクセがあります。そのクセの部分がその人だけのオリジナルのような部分です。「歌手の誰かに似ている」というのは単に、そのクセのつけかたの部分が似ていることなのです。この場合も、あるヴォーカリストのクセを知らず知らずのうちにマネしているとみてよいでしょう。また「歌がつまらない」と言われるのはそのクセ以外に聞くに値する部分がほとんどなくて、楽譜通りに声を出しているだけ、という状態なのでしょう。

  「何を歌っても同じようにきこえてしまう」のはクセにとらわれて、ワンパターンになることや、声色がずっと同じで動きがなかったりしているからかもしれません。

 いずれにせよ、歌うときに大事にしなくてはいけないことは、音のつなぎ方を練習して一つの曲をいろいろとアレンジして歌えるようにすることです。

 練習の中で曲のサビの部分を念入りにアレンジしてみてください。コピーから入るとどうしてももとのヴォーカリストの歌い方が一番しっくりくるような気がしますが、それではあなたが歌う必要などなくなるのです。なぜあなたが歌うのでしょうか。それはその歌手のものまねをするためではないはずです。他の人は皆、あなたの個性、あなたらしい歌を聞きに来てくれるのですから、そんなコピーを聴かせるのはもったいない話です。

 楽譜通りに伴奏テープをつくり、オリジナルを聴く前に自分で歌いこなしてみるような練習も効果的だと思います。

 

Q079

今度、はじめて人前で歌います。まだマイクの使い方がうまくありません。マイクを扱うときに気をつけることを教えてください。
A079

マイクは、口もとから少し離して持った方がよいでしょう。その方がマイクやステージの機器の違いによって、大きく音声が変わってしまう危険がないからです。

 モニターは、自分の歌っている声が聞こえるようにチェックしておくことです。バンドの音で聞こえにくければ、アンプの位置などを変えたりします。マイクもできれば歌う前に、どういうふうにきこえるのかをチェックしておくとよいでしょう。他の人が歌っているときに客席で聞いても、ある程度はわかります。

 しかし、自分の感覚やノリを最大限に歌の中で発揮するためには、、日頃からスピーカーから耳に聞こえる声でなく、マイクを使わずに体全体の感覚で声をとらえる習慣をつけておきましょう。マイクはあくまで小道具にすぎません。使いようによっては、本物のヴォーカリストになるのを妨げることにもなります。マイクテクニックに頼るのは、基本的な発声のフォームができてからにしてください。でないとカラオケ歌手の域から、なかなか出られなくなります。

 また、意味なくコードを持ったり、マイクを必要以上の力で持たないようにしてください。その余分な力が自然な声の流れを妨げます。マイクは小指を中心に単に支えるだけで持つようにして握らない方がよさそうです。

 マイクは高音がよく入るので、大きな声や高音のときは、少し離して斜めに構え、逆に低音や語りの場合は口の正面に近づけてください。

 スタンドマイクは、振り付けなどで両手が自由にならなくては困るときを除いては、あえて使う必要はないでしょう。

 

Q080

ステージをやっているのですが、どうも、曲の間のMCや、間合いをもたせることが苦手です。MCについてアドバイスがありましたら、よろしくお願いします。
A080

MC(Master of Ceremony)は、音楽業界ではステージで曲の合間のおしゃべりを指します。もともとは司会者という意味でした。バンドでは当然、ヴォーカリストがこの大役を担うわけです。MCを使うときは、だいたい次のようなときです。

(1)ステージの構成上、少しおしゃべりがほしいとき
(2)前の曲、もしくは次の曲の説明が必要なとき
(3)ステージの雰囲気や流れを変えたいとき
(4)バンドのメンバーの配置替えや交替、ギターやベースのチューニングなどで、間を   
      もたせなくてはいけないとき
(5)ステージの最初やエンディング、幕の前後など、一区切り必要なとき
(6)観客との親密度を深めるため、直接何かを話したいとき
(7)ステージにプラスアルファ、おもしろさをくわえたいとき
(8)次回のステージやレコードなどの宣伝をするとき
(9)歌い切って一息つくとき
(10)ギターの弦が切れたなど、不意のトラブルで間をもたせるとき

 ただし、へたにMCを多用するとせっかくのステージの流れを壊したり、歌を聴きに来ている観客の気持ちをそぐことになりかねません。バンドのパブリックイメージさえ、壊してしまうこともあります。

 やってはいけないMCもあります。
○まとまりなく、だらだらとした話
○聞いている人の一部しかわからない話
○やる気のなさが出たり、疲れたなどという言葉
○他のバンドの悪口
○観客に関することのミス、地名のミス
○ステージの流れとかけ離れた話
○差別用語、人を傷つける言葉

 ともすればうっかり口にしてしまう様子もたくさん含んでいますから気をつけましょう。

 MCは、自分たちのバンドのステージのスタイルを考えて、少しずつ取り入れて観客の反応を見ながら慣れていくしかないでしょう。歌と同じくらいにヴォーカリストの個性がでますし、ステージの演出にも効果的ですから、やはりプロとしてのMCができるように勉強するべきだと思います。

 

Q081

ステージでの心構え、気をつけることを教えてください。また、ステージとヴォイストレーニングとの関係を教えてください。
A081

ステージでは、必ず視線を観客の目に合わせることです。やや後方の真ん中の人を見るつもりでよいでしょう。きょろきょろするのは、みっともないのでやめましょう。

 観客の視線は、恐いほどステージの上のヴォーカリストの一挙一動に注がれています。意味のない動きは、全て余分なものになって目立ってしまうのでやらないことです。コードを持ったり、マイクを持つ位置を頻繁に変えたり、あいている手をやたらに動かしてはいけません。

 イントロ、間奏のときには、何をやっているのかが伝わるようにしなくてはいけません。例えば、間奏なのにマイクを口の前においたままでは、歌詞を忘れたのかと見ている人が心配してしまいます。

 ビデオカメラで撮ってチェックするのもよいでしょう。慣れぬ動きをするくらいなら動かないで歌に専念した方がよいのです。ステージで動きたければ、日頃から体がうまく動くように練習しておくことです。

 歌の出だしまでに、すでに半分以上は顔つきや姿勢で実力を読まれていると思ってください。つまり、ステージの袖から出てくるときの足取りや、曲を待つ間の振り、MCも含めて、ヴォーカリストは全て自分で演出しなくてはならないのです。

 自分が今、どのようにお客さんに見えていて、どう思われているかを常に受けとめ、ただちに次の動きを作り出さなくてはいけないのです。

 それには、よいステージをいくつも見ることです。見たら必ずまねてみることです。ライブのビデオを見ながらでもよいでしょう。日頃やらないで、本番でやろうとしても無理です。友人に注意を受けたり、自分で鏡を見たり、ビデオによるチェックをすることは必要です。

 歌い終わった後、余裕がなくてもニッコリとすること、おじぎをすること、さらにゆったりと堂々と袖に引っ込むことを心がけてください。人前に出ている間は絶対に気を抜けないのです。失敗しても、うまくいかなくても、そんな素振りは一切、見せないことです。いそいそと慣れぬ足取りで引っ込んだりしては、ヴォーカリストとしての未成熟さを感じさせ、ヴォーカリスト失格の烙印を押されてしまいます。

 ステージでは観客の反応や自分たちの演奏に集中し、歌では歌うことに専念します。
 ですから、ステージや歌のときに声のことを考えなくてもすむように、ヴォイストレーニングがあると考えてもよいでしょう。ものごとを頭から忘れるためにメモがあるのと同じです。ヴォイストレーニングのときには、声に全神経を傾けて行うわけです。ヴォイストレーニングをするから、歌やステージがよりよくなることは間違いありません。

 ヴォイストレーニングの発声に歌を合わせるのでは、本末転倒です。自由に歌ったりシャウトしたときに体から声と息が離れずについていれば、ヴォイストレーニングは充分いかされていると思ってよいのです。

 

Q082

僕は、オリジナル曲を歌っていきたいと思っています。どういう曲がオリジナルとしてよいのでしょうか。また、ヴォーカリストにとってのオリジナリティということがよく言われますが、そのこととあわせて、オリジナリティについて、教えてください。
A082

最近では、私のところに皆さんが持ってくる曲は、ほとんどがオリジナル曲と称されるものです。作詩作曲を学んで、高性能かつ安くなった楽器を利用して、手軽に皆さんが曲を作っているのをみると、日本もようやく音楽文化を語れる時代になりつつあるのかと思われます。ひと昔前は欧米アーティストのコピーばかりだったのに、今や、誰もが自分たちのオリジナルを追求し始めました。こういうところから、明日のロック界を背負って立つヴォーカリストが生まれてくるのだろうと思います。

 バンドは、自分たちの曲で勝負しなくてはいけない時代のようですから、シンガーソングライターや作曲家がバンドの中に生まれてきたのは、何をおいてもよいことです。

 しかし、立場を変えて聴くと、ちょっとヴォーカリストの力量と無関係に作っているのではないのかと思いたくなるものが多いのです。それと、すでに世に出てレコードをリリースしているバンドの亜流のような曲が多すぎます。きっと、憧れのバンドの曲の余韻ばかりしか、頭の中にはないのかもしれません。

 作曲作詩講座のコード進行表通りに、歯の浮くような歌詞をつけたものも少なくありません。特に、詞のセンスの悪いのは相変わらずです。これは日本の歌の宿命と思わず、何とかがんばって欲しいものです。

 要はオリジナルといっても形式だけで、内容がさっぱりないものが多いのです。ヴォーカリストもこちらに見えないし、何をどのように歌っていこうとするのか、バンドの姿勢もわかりかねます。

 世界で何万もの曲が出ている中でヒットした曲、あるいは、ワールドチャートのランキング100に入った曲と、あなたが数10曲作った中の1曲も、同じ1曲なのです。

 オリジナルというなら、自分たちの音楽が何に根ざし、どういうところにあるのかをしっかりと捉えた上で、自分たちのバンドならではの曲を作らなくてはならないはずです。そうでなくては、オリジナルとはいうものの、単に自分が作ったというだけに過ぎなくなります。表現されるオリジナリティがどのくらいあるかということが大切なのです。ヴォーカリストしだいでよくも悪くもなるとはいえ、その前に、本当にヴォーカリストやバンドの個性を生かす曲づくりをしていることが大切です。

 人と違うことをやるのがオリジナルと思っているのは、単なるコピーバンドと同じです。人と同じことをやりながら、そこに埋もれるどころか逆にその人らしさが光る、というのが本当のオリジナリティというものでしょう。

 本物のヴォーカリストは、何を歌っても、曲や歌の中にその人が埋もれてしまわないで、その人がそこに存在しているパワーが感じられるものです。その人が曲と一体になって出すパワーに人は心を打たれるのです。このパワーの源がオリジナリティなのです。

 オリジナルにこだわるなら、世界にはたくさんのよい曲があります。それをオリジナルに歌う練習が一番力がつくと思います。

 

Q083

コピーバンドをやっています。歌を一曲マスターするための練習方法を教えてください。
A083

(1)歌詞を別の紙に書き写す。
   日本語ならば漢字を使って書く方が意味を把握するのによい。(タテ書きの方がよ   
      い。)
(2)書き写した詞をチェック
   構成、感情表現、歌う世界、メリハリのつけ方などを思った通りに書き込んでみ
       る。
(3)声を出して詞を読んでみる。
 1)ゆっくりと、1つ1つの言葉をしっかりと発音する。
 2)普通のテンポで、やや大きな声で言葉を活かして表現する。
 3)早いテンポで、お腹から大きな声を出して読みきる。
 4)やや大きな声で、ゆっくりと(大胆かつ繊細に)感情を入れて読む。
(4)曲の構成を見る。
   できたら楽器でゆっくりと弾いてみるとよい。ここで言葉と合わせて曲のイメージを
      つかむ。作詞者、作曲者が何を表現したいのかを考える。キーが合わない場合は
      調整しておく。
(5)譜面を読む。
 1)譜面を見ながら、階名だけを読む。
 2)手や足でリズムだけをとる。
 3)リズムをとりながら階名で読んでみる。
 4)リズムに合わせて、言葉を読んでみる。
(6)メロディをつけて歌う。
 1)階名でメロディを歌ってみる。
 2)“ラララ…”でメロディを歌ってみる。
 3)歌詞をつけて、メロディどおりに歌ってみる。
(7)フレージングとメリハリをつける。
 1)歌をドラマチックに、ダイナミックに膨らませて歌う。
 2)パワフルな大きな声で歌う。
 3)高低、強弱をしっかりとつけて歌う。
 4)ブレスの場所を変えながら歌ってみる。(何度も歌いながら、自分に合った歌い方
      を定めていく。)
(8)プロの見本と比べてみる。
   どこが違うのかを次の項目でチェックしてみましょう。(必ずしもプロのヴォーカリス
      トの方がよいとは限りません。)
 1)音程、リズム、言葉
 2)曲のメリハリ、もり上がり
 3)感情表現、歌の世界
 4)個性、オリジナリティ
 5)トータルでのまとめ方、構成、完成度

 

Q084

ステージに出るたびにあがってしまい、本領を発揮できずにいつも悔しい思いをしています。どうすればあがらずに歌えるでしょうか。よい方法を教えてください。
A084

人前に立つときと自信のないものをやろうとするときは誰でもあがるものです。この二つが共にそろっているのがステージですから、あがらないほうがおかしいと思えばよいのです。

 プロの歌い手はもちろん、歴史的に名高いオペラ歌手や演奏家のなかにも、毎度舞台であがるという人はたくさんいます。そういう彼らがあがりながらも実力を発揮できるのは、ケタ違いの練習量で身に付いた基礎力が、少々あがってもそれをプラスに変えてしまうほどの力を持っているからだと思います。

 さて、あなたの場合ですが、緊張してまったく実力が出せなくなってしまう、あるいは歌えなくなってしまうのはあがったからではなく、あがったら何もできなくなると思い込んであがることを恐れているからです。間違えたり恥をかくことを恐れる気持ち、また、よいところを見せようと気負う気持ちが、歌うことを純粋に楽しもうとする気持ちを邪魔しているのです。歌に失敗したからといって、人が死ぬわけでもないし、それで自分の生命に関わるわけでもないでしょう。だから思い切って楽しむ気持ちに徹すればよいのです。そうすればあがってようが、よい歌が歌えると思います。

 また、緊張感はステージの魅力のひとつだということも忘れないでください。極度の緊張の中での1曲3分間、仮にこの緊迫感がなければ何曲歌っても大して興奮できず、歌い終ってもスッキリとしないのではないでしょうか。

 それでももう少し落ち着いて歌いたいのでしたら、あがり防止対策をいくつかご紹介します。いろいろ試してみて、これを参考に自分に最も合った方法をつくり出してください。

<あがり防止対策>
○練習を積み、自信を持って歌えるようにすること。
○ステージを予め見ておくとか、他人の歌うときに一緒に歌っているつもりでリハーサルをやっておくこと。
○お客さんのうちの一人に聴かせるつもりで歌う。マイクのなかに向かって、あるいは自分に言い聞かせるように歌う。よく、お客の顔を“畑のなかの野菜(カボチャ、ニンジン、ダイコンなど)だと思え”と言います。
○冗談で使われるほど言い古されていますが「手の平に人と書いて三度飲み込む」つまりおまじないめいたものは、動転しているときには気休めでも案外効くものです。
○震えがきたら、全身に一度力を入れて脱力する。
○膝がガクガクするようなら、足の親指にしっかり力を入れてぐっと曲げてみる。あるいは膝の屈伸運動をしてみる。
○深呼吸、または何回も大きく息を吐いてみる。
 また、あがると顔が熱くなったり、息がうまく吐けなくなったりします。上記の対策の前にまず冷たいタオルで顔をぬぐい、深い呼吸を繰り返し行なうとかなり落ちつきます。

 

Q085

歌うまえのウォーミングアップの方法を教えてください。プロのヴォーカリストは本番前にどのようなことをやっているのでしょうか。
A085

これもトレーニングとステージとでは条件が違ってきます。歌うまえに基本的にやっておくことは、体を動かし、全身を柔らかくしておくということです。少し、汗をかくくらいの方が、トレーニングにも入りやすいし、声も出やすくなります。息を吐いたり、声を軽く出して発声練習をしている人もいます。

 ステージの出番の前には、歌詞やメロディを確認している人もいれば、口ずさんでいる人もいます。舞台のチェックや衣装や振りつけを最終確認している人もいます。自分の実力を最大限に発揮できるように心身のコンディションを最高の状態にもっていけるようにしていかなくてはいけないわけです。

[11]トレーニング一般