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ヴォーカル、ヴォイストレーニングQ&A

[2]呼吸(ブレス)

 

Q011

歌っていても、いつもブレスが続きません。長く伸ばしたいのに、途中で息が抜けてしまうのです。ブレスが続かないのはどうしたらよいでしょうか。
A011

“自分は他の人に比べて、ブレスが短いのではないか”という悩みをもっている人は少なくありません。肺活量には個人差がありますが、それほど気にする必要はありません。歌うときに重要なのは息の吸う量や吐く量ではなく、正しい腹式呼吸を身につけて息を上手に、いかに効率よく声として使うかということなのです。声を出す原動力は声帯を振動させる空気なのですから、思うままに声を操るためには、発声以前にブレスをきちんとマスターしておく必要があります。

 難しいトレーニングではなく、深く息を吐き、しぜんと吸うことを心がけて生活するだけでも大分、違ってくるでしょう。限られたトレーニング時間よりも、毎日の生活のなかで、常にヴォイストレーニングを意識していることがより有効な訓練になるのです。

<息の強さを調整するトレーニング>
 むらなく均等な声を出すためには息の強さが問題になりますが、最初から均等な呼吸をするのは難しいものです。次のように、息の強さを調節するトレーニングをしてみましょう。
(1)はじめは弱く、だんだん強く出す。
(2)はじめは弱く、だんだん強く、そして再び弱く。
(3)はじめは強く、だんだん弱く、再びだんだん強く。
(4)はじめから織り輪まで同じ強さで。

 

Q012

腹式呼吸と胸式呼吸との違いがよくわかりません。先生には胸式呼吸だといわれ、直すように注意されたのですが、どのようにすればよいでしょうか。
A012

“腹式呼吸”に対して、歌うのには適さないとされているのが、“胸式呼吸”です。簡単にいうと、胸の周りに呼吸した空気を入れてしまう呼吸方法です。胸式呼吸を確かめる方法は、ブレスをしたときに、肩や胸がもり上がるかどうかです。肩、胸が上がるのなら、胸式呼吸でしょう。つまり、間違った場所に空気を入れているわけなのです。歌う声は「お腹から出す」ものなのですから、お腹から空気を送ることが基本です。

 胸式呼吸だと思ったら、両足をかるく開き、背筋を伸ばして立ちます。肩の力を抜いて手をウエストの両わきへあて、そこに空気が入るように少しずつ息を吸ってみましょう。そのとき、肩、胸が盛り上がったり、力が入ったりしてはいけません。正しい腹式呼吸ができていれば、お腹の周り全体が外側へふくらむのが感じられるはずです。最初はわかりにくいので、上体を前方へ倒してやったり、座ったり、寝ころんだりして、息と体(お腹)との関係をつかむとよいでしょう。

 歌うときの呼吸は、このように腹式呼吸が主なのですが、胸式呼吸を全面的に否定しているのではありません。実際には、少なからず、腹式、胸式の両者が組み合わされているのです。胸部の空気を完全に抜くことは、不可能なのですから、腹式呼吸が基本とはいえ、胸部の運動を停止させ、無視するということでは決してないのです。

 呼吸法が急に切り換わるものではありませんから、徐々に、お腹の力を強くしていき、うまく全身がリラックスできるようになるまで、日頃から心がけてがんばってください。

 特に日本人の女性の場合は、胸式が普通であるといってもよいくらい、呼吸の中心となっています。こういうときは、スポーツや激しい運動などによって覚えていくのも、一つの手段かと思います。

 エアロビクス運動(アエロビクス、ジョギング、水泳など)や、気功、ヨガなどを取り入れれば、より成果が上がります。慣れてくれば無意識のうちにしぜんな腹式呼吸ができるようになりますので、それまでがんばってください。



Q013

歌うときに、テンポが速かったり、伸ばすところが続いていたりして、息が間に合わないことがよくあります。そこで、ブレスのトレーニングの必要性を感じるようになりました。吸う練習は必要ないのでしょうか。どのようにすればよいのでしょうか。
A013

声は、息を吐くときに、声帯が閉じて、そこを空気で振動させて出すものです。声のコントロールは、吐く息の調節によって行われるのです。ヴォーカリストのトレーニングは、自分の思い通りに吐く息をコントロールするためのトレーニングといってもよいでしょう。吐く息の量や長さを自由にコントロールできるようになれば、息を吸うこともしぜんとできるようになってきます。

 なかには、吸うことを意識しすぎ、息をつかいきったあとに、吐くのと同じかそれ以上時間をかけてがんばって息を吸っている人がいます。しかし、実際は、“吸う”というより“入る”といった感じが正しいです。よく“花をかぐくらいの息”を理想だといわれます。息を吐いたあと体がバネのように呼応して息を取り入れなくては、ヴォーカリストの歌には、とてもついていけません。吸うなどという動作があってはいけないのです。

 仰向けに寝ころんで、少し厚みのある重い本をお腹の上にのせます。頭や足、肩や首などすべての力を抜いてください。そのまま、できるだけ息を吐き出します。かなりお腹がへこんでしまったのがわかるでしょう。このときのお腹の筋肉の感じを覚えておいてください。そして、そのままでいると、こんどはお腹にのせた本がせり上がって、しぜんとお腹に空気が入っていくのがわかります。腹式呼吸では、息を吸おうとしなくとも、吐いた分だけ空気が入ってくるのです。この息の“流れ”を大切にしましょう。

 こんどは、お腹の上の本の動きを見ながら、途中で2〜3秒息を止めてみましょう。ゆっくり吸ったり、ゆっくり吐いたりの途中で、息を止めるのです。舌に力を入れずに前歯の裏に軽くつけ、上の歯としたの歯の間からスゥーと出るようにしてゆっくり吐き出しましょう。のどにも力を入れないようにします。

 次に、時計を見ながら、1回の呼吸を12秒かけて練習してください。吸うのに2秒、吐くのに6秒、その間に2秒ずつ息を止める時間をもちます。これができたら、吐く時間を少しずつ延ばしていきます。

 

Q014

歌っていると、肩が動きます。これは、ヴォーカリストにとってよくないと言われました。どうしてでしょうか。また、肩が動くのを直す方法はありますか。
A014

まず、見た目によくありません。ヴォーカリストのわずかな動きも無駄なものであれば、とても目ざわりなものです。

 ブレスをしたときに肩が動くという症状は、胸式呼吸を行っているときに起こります。きちんとお腹に空気が入っていないのです。激しい運動をするとハアハアと肩で息をしますが、この肩呼吸は吸うのも吐くのもはやいのです。そのためスポーツの後、酸素をすばやくとりいれるにはよいですが、歌のように長く息をコントロールしなければならないものには不向きです。このことに気づいたら、大きな鏡の前でもう一度、歌うときの基本姿勢からチェックしてみましょう。

 どうしても肩に力が入ってしまうという人は、水を入れたバケツなどの重い物を両手で持ち、足は軽く開いて立ってみましょう。このとき、重い物を持っているからといって肩から腕を力にまかせて固くしないように気をつけてください。重さで前かがみ(猫背)になるのもよくありません。背筋は伸ばし、肩の力を抜いてバケツの重さを感じ、地球の重力に自分の体が引っぱられているように意識してみてください。このときには、足腰がしっかりと地についた感じで、安定したよい状態になっているはずです。この状態でゆっくりと呼吸をしてみてください。お腹の底に空気が入ってゆくのが感じられるでしょう。それができるようになったら、バケツなしでも、同じ状態を保てるようにトレーニングしましょう。少しずつ肩の無駄な動きは取れてゆくはずです。

●水の入ったバケツを持つ。
●グランドピアノのボディの下をつかむ。

 

Q015

毎日、私は、腹筋運動をしています。腹式呼吸を強化するために、腕立て伏せから、足上げ上体起こしとやっているのですが、あまり上達しているように思えません。腹式呼吸には腹筋運動がよいのでしょうか。
A015

歌うための体づくりのためには、腹筋運動が有効であると考えがちです。しかし、結論から言うと、腹筋を鍛えないよりは、鍛えた方がよいですが、それほど腹式呼吸に効果的なトレーニングとはいえません。腹筋運動での外側の筋肉の強化はどのスポーツの選手にも必要ですが、ヴォーカリストにとっては実際に腹式呼吸で使われる内側の横隔膜に関わる筋肉や助間筋などを鍛える方がより直接的なのです。

 声は息によってコントロールされます。その息をコントロールするための筋肉はやはり息を吐くことによって鍛える方が早いのです。

 もちろん、それを支えるために腹筋運動をハードにすることでヴォーカリストの体がつくれるわけではありませんが、適度にお腹の筋肉を鍛えておくことも大切なことです。

 簡単な腹筋運動を以下、いくつかあげてみます。

<腹筋を鍛えるトレーニング>
(1)仰向けに寝て両足を少しだけ浮かせるようにします。腰から腹筋で持ち上げていきます。ひざが曲がったりしないように両足をぴったりとつけてつま先まで伸ばすことを心がけてください。
(2)仰向けに寝ころがって上半身を起こすというトレーニングもよいでしょう。このとき、両腕は頭のうしろへ組みましょう。他に、腕立て伏せも腹筋を鍛えるトレーニングになります。
 仰向けになって、おへそのあたりに本などの重いものをのせて、ブレスや発声をしてみると、腹筋の動きを感じやすいので参考になるでしょう。

 

Q016

お腹から思う存分、声が出ません。腹式呼吸で歌っていないから、お腹から声が出ないのだと思います。どうすれば腹式呼吸が一番早く身につくでしょうか。
A016

まず、腹式呼吸だけでは声は出ないということを踏まえた上で、腹式呼吸は声を出すための大切な条件であることを知っておいてください。私たちは眠っているときに、無意識のうちに腹式呼吸を行っています。ですから単に腹式呼吸をすることでしたら全く難しいことではありません。しかし、歌うときに腹式呼吸が無意識的にできるようになるために、意識的にトレーニングするのです。立った姿勢でどんな歌に対しても、しっかりとした声が出るように思い通りに息をコントロールできるようにならなければなりません。そのためには、眠っているときの腹式呼吸とは、ケタ違いに高度な技術が必要なわけです。これには時間をかけて毎日休まずコツコツとトレーニングをして身につけていくしかありません。

<腹式呼吸の習得練習>
両足を少し開き、リラックスして立ちます。
1. まず息をゆっくりとお腹に空気がなくなるまで吐く
2. 2,3秒止める
3. ゆっくりとお腹に吸えなくなるまで空気を入れる。
4. 2,3秒止める
※1、2、3、4、1、2、3、4……とくり返す。

同様の姿勢で行ないます。

1. 4分音符=60を目安にして(始めは4分音符=40位から)
  スタッカートでアッ,アッ,アッ,アッ,アッ一回ごとに、お腹が強くふくらむかんじで。
2. 一回ずつアクセントをつけてさらに声をつなげる。お腹も動くように。
3. 倍の速さで1と同様にスタッカートでお腹が一回ごとに強く動くように。
4. 3と同じテンポで2と同じ歌い方で。
5. 3連符で、1.3と同様に。
6. 2.4と同様に。テンポは5と同様に。
7. 1.3.5と同様に。
8. 2.4.6と同様に。

 初めのうちは、この練習をするときに、1から4くらいのテンポまででしっかりとトレーニングしてください。無理に速いテンポで練習しても雑になるだけです。少しずつ速いテンポに進んでいくようにしましょう。基本の速度も、最初は4分音符=40位から練習してください。

 このトレーニングは腹式呼吸の練習にもなりますし、リズムの練習にもなります。毎日5分間で充分ですので、継続してトレーニングしましょう。一通りできるようになってからも、発声練習のまえに毎日行なって欲しいものです。

 

Q017

私は体が小さくて、肺活量もあまりありません。ヴォーカルとしては不向きのようですが、歌に肺活量は関係あるのでしょうか。
A017

“肺活量が少ないから、歌に向いていないのではないか”と悩んでも仕方ありません。 確かに、肺活量が大きいにこしたことはありませんが、せいぜい、ないよりはあった方がよいといえるくらいです。オペラ歌手でさえ小柄な人はいます。大男や肺活量の多いスポーツ選手がヴォーカリストに向いているわけでもないでしょう。大切なのは呼吸した空気(呼気量)をどれだけ効率よく声に変えられるかということなのです。息がいくら多く吸えても、息もればかりで、それを声として生かせないのであれば何の意味もありません。

 肺活量の大きさはヴォーカリストを目指す上での条件にもならないでしょう。そんなことが有利なら、世の中には、大柄な男性のヴォーカリストしかいなくなります。まず、充分に自分の体を使い切ること、全身で歌えるところまでトレーニングすることです。
 声帯をいかに少ない空気量で振動させられるか、そして、それをいかに共鳴させられるかで声量が決まってくるのです。

 肺活量の大きさなど全く気にせずにロスの少ない正しい発声法をマスターすることが重要な課題です。声が人並みに出せる人でヴォーカルに不向きな人はいません。もし、いるなら、ささいなことを不向きな条件だと思ってしまう人の方です。

 

Q018

私のサークルでは、ヴォーカルをやっている人は、皆、スポーツをやってきた人です。スポーツのできる人は、歌も総じてうまいようですが、何か秘訣があるのでしょうか。スポーツ選手はヴォーカルに有利なのでしょうか。
A018

スポーツで体が鍛えられているという点を考えると、歌うことも体を使うことなので共通する点はあります。また、体力もあった方が有利です。そして、何もやったことのない人よりは、ひとつのことを習得するために必要なこと、そして、身につく過程を体験してきたということを知っているということも、有利な条件だけと思います。

 ただ、歌のためのヴォイストレーニングと、スポーツのためのトレーニングで重なっているものが少なくないのも確かなことです。ヴォーカリストの基本条件の一つとして“柔軟な体を保つ”ということがありますが、これに関しても、常に体を動かしてトレーニングを重ねているスポーツ選手にはわかりやすいことです。

 しかし、スポーツをやってきた人がヴォーカルをやることが多いということの本当の理由は、性格的に明るく人前に出たがり屋で、ステージでも体を動かせるヴォーカルを選ぶからだと思います。しかも、彼らの多くは楽器ができません。だからヴォーカルをやるしかない、ということもあるのでしょう。

 以上、スポーツの経験がもたらすメリットについて述べましたが、これは決してスポーツ選手がヴォーカリスト向きであって、それ以外の人はとてもかなわないということではありません。Q017で述べた通り、普通に声が出せる人なら誰でも、正しいトレーニングによって確実な効果が得られるのですから、コンプレックスを感じたりせずに、スポーツマン精神に負けない強固な意志で、地道な努力を続けることです。

 

Q019

歌っていると、ときたま息が苦しくなることがあります。たいして大きな声ではないのですが、すぐに声が途切れがちになったり、聞こえないような小さな声になります。ブレスか発声の問題でしょうか。
A019

充分に息を吸っているつもりなのに、息を吐くとすぐに苦しくなってしまう人は、まず体を鍛えることです。そうでないと、息が短く、余裕のない歌い方になります。これは、体と呼気の使い方の問題です。息を吐くときに酸欠になりやすい人もいます。これは、エアロビクスやジャズダンスなど、呼吸をふんだんに必要とする運動によっても強くなるでしょう。本当のことを言うと、ほとんどの人は、ヴォーカリストとして息を吐けるだけの体になっていません。ですから、私のところのトレーニングでは、最初はプロレベルの活動をしている人でも酸欠気味になる人が少なくないのです。しかし、本当のプロのヴォーカリストは、そんなことはありません。ということは、まず、ここから鍛えなくてはいけないということです。呼気を声に変える効率が悪く、息のロスが多いから、そうなるのです。

 もう一度腹式呼吸を基本からチェックしていきましょう。ウエストの位置のわき腹を両手で押さえて、きちんとお腹に息が入っているかを確認してください。お腹が空気でふくらんだ状態をできるだけキープしながら、少しずつ息を吐いていく練習をしてみてください。毎日続けていくうちに少しずつ、吐く時間は長くなっていくはずです。声を出して、どれくらい長く伸ばせるかといった訓練もしてください。息もれに注意して、一秒でも長く伸ばそうと心がけて練習をしていきましょう。

 このときに注意しなければならないことは、息を、あまりに吸いすぎないことです。苦しくなるほど限界まで吸うと、かえって胸部まで空気でいっぱいになってしまい、うまくいかなくなってしまいます。

 

Q020

フレーズの終わりが長く伸びたり音程が不安定になったりして、どうも歌全体が引き締まらなくなってしまいます。どうすれば直りますか。
A020

これは“ブレス”に深く関わる問題です。ブレスが浅いと一つのフレーズの終わりごとに声を保つことが難しくなり、音程やリズムが狂いがちになるのです。語尾がうまく切れないのも吐く息に充分な余裕がないからです。息が一定に保てなくなると、声が揺れて多くの場合は音がフラット(下がる)します。呼吸法をしっかりマスターすれば横隔膜の働きで呼気を一瞬にして停止できますから、フレーズの終わりもふしぜんにならなずに切ることができます。息の量も自在にコントロールできるので、音が不安定になることもありません。

<語尾をしっかりと切るトレーニング>
 以下の言葉の語尾をしっかりと言い切ります。ただし、口先で息を止めるのではなく、お腹を使った息のコントロールで言葉を切ってください。
(1)いっちょう、あがり。
(2)こらまたどうした。
(3)イエイ、イエイ、イエイ。
(4)オットトッ、しつれい。
(5)ヤッホー、オーイ。
(6)また、あしたね。
(7)ヘーイ、ラッシャイ。

[3]発声(ヴォイス)