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ヴォーカル、ヴォイストレーニングQ&A

[3]発声(ヴォイス)

 

Q021

いつもしぜんな声で歌いなさいと注意されています。自分ではしぜんな声でと思っているのですが、何となく録音したものを聞くとしぜんではないような気がします。しぜんな声とはどんな声でしょうか。どうすればしぜんな声がでるのでしょうか。
A021

しぜんな声というのが、あるわけではありません。あなたにとってしぜんに出している声にしていくということです。この見本は、自分でみつけていかなくてはいけません。一般的には、体をリラックスさせて出した声は、話し声でも、歌声であっても、しぜんな声がでます。反対に、ふしぜんな姿勢で発声をすると、どこかに力が入って、ふしぜんな声がになるものです。体が固くなっていると、声まで固い感じになってしまいます。姿勢や感情に左右されるものもあります。

 歌うときの理想の姿勢であるリラックスをした無駄な力の入っていない状態で出された声は、自分で気に入るかどうかは別問題として、その人にとってしぜんな声といえます。この声があなたの基本となる声です。実際に歌うときにも、この声を忘れてはなりません。

 しかし、しっかりした訓練ができていないと、歌うなかで、このしぜんな声を保つのは容易ではありません。さらに、日本人の普段の声そのものが、しぜんに出ているとは言い難いところがあります。日本語としてしぜんに声を出せるまでにも相当のトレーニングを要します。

<しぜんな声で読むトレーニング>
赤とんぼ
ゆうやけこやけの赤とんぼ
おわれてみたのは いつの日か

山のこかげのくわの実を
こかごにつんだのは いつの日か

ゆうやけこやけの赤とんぼ
とまっているよ さおのうえ

 

Q022

私は自分ではうまく歌えており、声も充分に出ていると思っているのですが、テープにおとしたものを聞くと、どうもイメージが違っています。録音すると変な声になるのですが、どうしてなのでしょうか。
A022

自分の本当の声は案外とわからないものです。というのは、普段、話すときなどに聴いている自分の声は、相手に伝わっている声とは全く違うからです。声を出すと、一度空気中に出されて、耳の鼓膜を通して聴いている声と、自分の体を通じて内耳から入る声と二種類同時に聴こえるからです。しかし、他人が聴いているあなたの声は、口から出された声が空気中を伝った声だけなのです。そこで、自分に聞こえているあなたの声と第三者が聴いているあなたの声とは全く異なっているわけです。

 テープレコーダーで録音したあなたの声は、空間を伝わって録音されていますので、普段、あなたの声として他の人が聴いている声に近い声なのです。自分にとっては、聴き慣れない声なので、変な感じがするものですが、この方が正しいと思ってください。ヴォーカリストは人がどのように聴くかということが問われるのですから、この録音された声がどうであるかが重要なことなのです。レコーディングをしたときや、マイクを通して伝わる声も、この声なのです。

 ヴォイストレーニングでも、自分の声を録音して、客観的に、自分の声を判断できるようになることが必要です。もちろん、どんな録音機でもマイクを通すことになりますから、本当の自分の声を自分で聞くことはできません。ヴォイストレーナーや第三者に聞いてもらうことが、ヴォーカルの場合に絶対に必要だといわれるのは、こういうことからなのです。


Q023

私は洋楽をやっています。ところが声そのものの魅力、張りや伸びから音質まで全てが日本人とは全く違うように聞こえます。日本人と外人の声とは違うのでしょうか。また、そのギャップを埋めることはできるのでしょうか。
A023

日本人の話す声と外人の話す声を比べてみてください。言語の違いも関係するとは思いますが、総じて日本人の話し方は音量も小さく貧弱で、話のリズムも平面的でパワーに欠ける気がしませんか。それに対して、外人は深く体についた魅力的な声で話し、明るくはっきりとしていてリズム感があります。歌以前の段階でこれだけの差があるのです。これは、ヴォーカリストを比べてみるとさらに感じることだと思います。外人は、話しているときの声がとてもしぜんなので、その声を基本にそのまま歌に入っていけるのです。話しているときから、リズムがあるので、何気なく口ずさんだだけでも歌になります。いつも単調に話している日本人の私たちより様になるのです。

 しかし、最近は、骨格や背の高さなども外人と日本人は変わらないようになりましたから、きちんとした発声法を身につけることができれば外人と同じように声が出せるはずです。普段の話し声もトレーニングしだいで、克服できます。日常生活から、言葉をはっきりと明瞭に話すよう心がけましょう。これが歌にも必ずよい影響を与えていくでしょう。

 

Q024

私はハスキーな声にあこがれています。喉をつぶしたり、わざとそのような声にして出していたことがあるのですが、どちらもうまく続きません。そのうち、普通に歌っているときも、声がかすれるようになってきました。大丈夫でしょうか。
A024

声は声帯の振動によって出るものです。声がかすれるという場合、声帯が発声障害を起こしているという可能性も考えられます。悪い状態で歌いすぎると炎症をおこしたりポリープができたりしやすくなります。この場合は、声(声帯)を休めて、治るのを待たねばなりません。そのまま歌い続けると、さらに悪化してしまうので注意してください。

 また、他の原因で声がよく出ないということも考えられます。炎症やポリープなのか、単に疲れや発声の仕方が悪いためなのかを見分けるためには、充分に声を休めたあとに、低く深い声がかすれずに出るかどうかでチェックするとよいでしょう。

 声のかすれているときの練習方法は、ハミングが効果的です。まず口を閉じて、自分だけがどうにか聴き取れる位の小さな音量でハミングをしてください。このときは、メガネを止める鼻の位置を意識するようにします。目はよく開き、ほおを上げるようにややほほ笑んだ感じにします。この状態でハミングが乱れないようにできるようにします。それができたら、簡単な音程をつけた練習をしてみましょう。ソファミレドの音階を自分の歌いやすい音程から始めて半音ずつキーを上げていきます。このときも4分音符=60以内くらいにゆっくりとハミングしてください。ハミングは、声帯がうまく合わさらないとできないものなので、この発声練習が無理なくできるときは、声帯は正常だということがいえます。

 声はのどだけでコントロールできるものではありません。聴く側にしてみれば、ラフな感じのするハスキーヴォイスですが、プラスアルファのテクニックで他の多くのヴォーカリストにはない色をつけるわけですから実は大変難しいのです。基礎がしっかりと身についていて、歌うための理想のフォームができあがっていなければ正しく使えません。
 無茶をしないでまずは基礎トレーニングをこなし、自分の声の土台を築いてください。決してのどをつぶそうとしたり、無理にからした声を出そうとしたりしてはいけません。一時そのような声が出ても、少し休むとすぐにもとの弱々しい声に戻ります。それどころか音域音量とも制限されて、しまいには歌どころではなくなってしまいます。ヴォーカリストを目指すならば、絶対にやめるべきです。


Q025

ヴォイストレーニングでは、呼吸や声帯の構造、仕組みから教わると聞きました。なぜ呼吸や声のしくみ、メカニズムを知る必要があるのでしょうか。
A025

“歌うときはお腹の底から声を出せ”とよくいいます。ヴォーカリストを目指す初心者にとって、これをすぐに実行するのは、至難の技であると言えます。言葉の意味するイメージがはっきりとしていないのですから、当然のことです。まずは、多少なりとも、声を出すための楽器としての自分の体のしくみを、理解する必要があります。そして声の出るときのしくみを知ることです。とはいっても、体の構造すべてについての専門的な勉強が必要なのではありません。とりあえずは、声を出すときに関係する部分での基本的な知識でよいのです。これを理解して始めることでヴォーカリストを目指して、勉強していく上での大きな差が出てくるのです。

 ヴォーカルのトレーニングを始めるにあたり、一通りでよいから、必ず声のしくみとメカニズムを理解しておきましょう。

呼吸のメカニズム
 呼吸は、肺がそれ自体の力で膨らんだり縮んだりして行なうのではありません。肺を取り囲む胸郭(きょうかく)が、横隔膜、肋間筋(ろっかんきん)などの働きによって拡張したり収縮したりして、肺に作用して行なわれるのです。
 呼吸のメカニズムを説明するのによく用いられるのが、下に示したヘーリングの模型です。この模型は、びんを胸郭に、底に張ったゴム膜を横隔膜に見立て、気管に見立てた二股のガラス管の先には、肺に見立てたゴム風船がついています。
 底のゴム膜を下に引っ張ると、びんの中の気圧が外圧よりも下がり、ゴム風船にはしぜんに空気が入って膨らみます。そして、底のゴム膜を引っ張っていた指をはなすと、びんの中の気圧が上昇してゴム風船は縮み、空気は外へ流出します。
 これが、胸郭の拡張と収縮による吸気と呼気に相当することを理解してください。

横隔膜
 横隔膜は胸腔と腹腔の境となり、ふだんはお椀をふせたような形をした筋肉質です。この筋肉が収縮すると、膜全体が平らになって下がり、胸郭の容積が増します。

 

Q026

私はカールスモーキー石井さんが大好きです。彼のような声になりたいのですが、どうしたらよいのですか。
A026

声は声帯の形と共鳴のさせ方で人によって全然違うものです。親子や兄弟で声がそっくりだから、電話ではどちらかわからない、というのは声帯の形が似ている例です。顔の形が似ているとひびきも同じようになるからです。

 共鳴のさせ方を似させているのはものまねをする人です。声や顔は全然ちがうのになぜか似させているときには声だけでなく顔の表情まで似てしまいますから面白いのです。声帯の形は生まれつきのもので変えることはできませんが、共鳴のさせ方はかなりの程度までは訓練によって変化をつけることができるのです。

 共鳴のさせ方を似せるためには何といっても似せたい人の声をCDか何かで流して、その声と一緒に歌うという練習が一番早いでしょう。黒板をチョークでキーッとやると気が遠くなりそうになりますが、それほど人間の体は音に対して過敏に反応します。ましてや人の声なら自分の同じ部分が同じように動こうとするのは当たり前のことです。だからそれを利用して、その人の歌を聞きながら一緒に歌えば、いつの間にか似てくるのです。
 さて、カールスモーキー石井さんが好きで彼のような声になりたいという気持ちはよくわかります。しかし彼とあなたの声帯の形が似ているとは限りません。そうでないなら相当無理をしないと、その望みはほとんど実現不可能なわけです。仮に似ていたとしても、共鳴のさせ方や歌い回しなどを彼に似せなくては「彼の声」にはなれません。しかし、そうすることに何の意味があるでしょうか。ファンとして、カラオケや花見の余興でやるくらいならよいでしょう。しかし、ヴォーカリストになるためにヴォイストレーニングをはじめようとこの本を読んでいるあなたには、人に似ていることを喜んでも何にもならないということに気づくべきでしょう。ヴォーカリストは自分の個性をいかに出していくかで、決まってくるのです。人のマネをしようとばかりしていると個性とかあなたの魅力とかがでなくなってしまって、つまらなくなってしまいますよ。

 

Q027

私は喉が弱くて、大きな声で歌えません。二、三曲歌うと、もう休まなければ持ちません。声を出すとすぐ喉が痛くなるのですが、喉を強くする方法はないでしょうか。
A027

カラオケをしたり、スポーツ観戦などで大声を張り上げて応援をした後は、誰でも多少喉が痛いと感じた経験があると思います。これは普段出さない大きな声を無理をして発声し続けたために起こるものです。

 しかし、歌をうたってすぐに喉が痛くなるのでは、ヴォーカリストは務まりません。しぜんな声を出しているときは、喉への負担も最小限ですみますから、喉がすぐに痛む場合は、しぜんな発声法ができていないということになります。

 トレーニングのときのイメージとしては、声帯(喉)ではなく、横隔膜のあるところから声を出す感覚で発声することです。実際に、声帯を振動させる原動力となる息を送り出し、コントロールしているのはお腹であり、喉をいくらリラックスさせようと思っても、喉そのものをコントロールすることはできないからです。

 声量を増やすために、喉を無理に鳴らそうとしている人をよくみかけます。しかし、声量は息の使い方と、共鳴のさせ方で変わってくるもので、喉をいかに鳴らすことができるかではないのです。それを知らずに無理に声帯に負担をかけては痛めるだけです。
 喉は、確かに強くなります。それは喉を酷使するからではなく、お腹からの正しい発声方法で、毎日トレーニングをしていった結果なのです。喉をつぶしてよくなったと言っているヴォーカリストがいますが、決して、まねをしないようにしてください。

<笑いのトレーニング>
 最初は弱く、少しずつ強く出し、最後は弱くして終わってください。なるべく大げさに楽しく明るくやること。
(1)ワハハハ、アハハハ、グアハハハ
(2)アハハハ、イヒヒヒ、ウフフフ、エヘヘヘ、オホホホ
(3)自由に1分間

 

Q028

僕の声は、生まれつき小さくてひびきません。クラスのなかでも小さいほうです。しかし、歌をうたっていきたいので、声を大きくしていきたいのです。そのために弱々しい声を直したいのですが、どうすればよいのでしょうか。
A028

他の人に聴き取れないほどの弱々しい声(日常的な会話に不自由する)しか出ないのならば、声帯に異常があるということも考えられるので、一度、医師に相談してみた方が安心でしょう。でも、思い通りに声が出ないという程度であれば、その必要はありません。

 声は個人差の大きいものです。声量や声質は誰一人として全く同じという人はいません。声が太いと力強く、声が細いとどうしても弱々しく聴こえるものです。
 ですから、声が細い人は、それが自分の声が本来もっている特色、個性なのですから、その声に磨きをかけるつもりでトレーニングをしてみるとよいのではないでしょうか。細くてもよく通り、張りのある声であれば、あなたはヴォーカリストとして充分に通用します。いくら太い声で声量があっても、ただ怒鳴っているだけでは、誰も耳を傾けてくれません。

 ヴォーカリストになりたいと言いつつ、小手先のテクニックでそれらしく歌えることに満足しているようでは、いつか壁にぶつかります。生まれもっている声質そのものを変えることはできませんが、あなたがこれから真剣にヴォイストレーニングにとり組んだなら、素質やごまかしの上であぐらをかいている人たちを出し抜くことなど容易なはずです。

 下に挙げた返事のトレーニングは、一言ひとことをブレスヴォイスでしっかりと発声するつもりで行なってください。トレーニング以外でも、この感覚を忘れず常に、はきはきと話すよう心がければ、声の印象がみるみる変わってきます。

<「ハイ」のトレーニング>
 小さな声から少しずつ大きな声へクレッシェンドしていきます。
(1)ハイ ハイ ハイ ハイ ハイ
(2)ハイ ハアイ ハアアイ
(3)ハイ行くよ、ハイオーケー、ハイわかりました

 

Q029

僕は今年高校生になったばかりです。バンドを組んで歌っているのですが、声変わりの影響なのかどうも声の調子が安定しません。こういうときに練習してもよいのでしょうか。
A029

思春期に起こる体の変化の一つが声変わりです。発声器官である声帯は、第二次性徴期、つまり思春期になると急激な変化を遂げます。声帯のある喉頭も、女性は10〜13歳くらい、男性は少し送れて11〜14歳くらいで変化します。声変わりはこの変化に伴って起こります。実際は男女ともその時期が存在するのですが、女性の場合は余り目立ちません。男性の喉頭が甲状軟骨の中央部隆起によって喉ぼとけを形成するのに対し、女性の甲状軟骨は上下に伸びるだけなので、声帯の変化も男性よりは小さいのです。

 甲状軟骨が前後方向に長く伸び喉頭隆起ができると、声帯もそれにつれて長く伸びます。楽器の弦の長さの関係と同じで、長くなった声帯は振動幅が大きくなりますから、発する声は低くなります。そのうえ咽頭、副鼻腔など他の器官の成長に伴う共鳴効果の変化や呼吸量の増加などの要素が加わって、声変わりが起こります。

 思春期の体の変化は本人がついていけないほど急激です。身長の伸びが急すぎて体の節々に痛みを覚える人もいます。声変わりの最中も、なかなか声のポイントが定まらず、かすれたり裏返ったりしますが、これは本人の声が完成するまでの大切なステップです。時にはもどかしくなることもあるでしょうが、無理をしてはいけません。ハードなトレーニングは避けて、のどを痛めないように細心の注意を払いましょう。

[4]発音/言葉(母音)